3Dプリンターで作られたクッキー型の衛生面は大丈夫なのか?細菌の繁殖や安全性について解説

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昨今、3Dプリンターを用いてものづくりをする人も少しずつ増えてきております。
そんな中「熱積層3Dプリンターを用いてクッキー型を作りたいのだが安全性はどうなのか」という質問を受ける機会がありました。
この場で結論を申し上げますと3Dプリンターでクッキー型を作成するのはおすすめできません。
あくまで個人の意見ですが、製造業に携わっており尚且つ3Dプリンターについてある程度の見識を持っている方であれば少なくともおすすめすることは無いでしょう。

主な理由は以下の通りです。

・積層痕が残るため、雑菌が繁殖しやすい
・ノズルを通して細かい金属片が混入する可能性がある
・耐熱性に問題があり、煮沸消毒ができない

ではそれぞれ詳しく解説していきます

1.積層痕によって雑菌が繁殖する

熱積層の3Dプリンターを使うと造形物の表層に「積層痕」と呼ばれるザラザラの表面ができあがります。積層痕は使用するノズル系や積層ピッチによって変わりますが、ツルツルの表面が得られることはありません。通常の3Dプリンターに使用されているノズル径は基本的にΦ0.4mmです。径の小さいノズルであればΦ0.2mm程度ですが、径が小さくなったとしても積層痕は残ります。
この積層痕はヤスリなどで根気よく削れば”ある程度”はマシになりますが、それでも積層痕が無くなるわけではありません。ましてや、PLA樹脂は研削性が悪いのでヤスリなどで綺麗な表面を得る事が難しいです。
また積層痕だけでなく、熱積層では目に見えない程度の小さな孔も発生する事があります。

こうして生まれた積層痕や小さな孔に水分が残留したままになると、細菌が繁殖してしまいます。
そのためクッキー型に限らず、水回りの部品を3Dプリンターで造形することもオススメできません。

2.ノズルを通して金属片が混入する恐れがある

次にノズルの問題です。
熱積層3Dプリンターはフィラメントと呼ばれるプラスチック材料を溶かし、ノズルを経由して造形されていきます。
そしてこのノズルは”摩耗”していきます。
フィラメントが押し出される際にノズル内部に25MPa程度の高い圧力がかかりフィラメントがノズル壁面に押し付けられて吐出されるため、ノズルは徐々に摩耗していきます。
摩耗していくという事は、ノズルの非常に細かいカスが軟化したフィラメントと混ざり、造形物に混入する可能性があるという事です。

3Dプリンターノズルの材質は主に真鍮が採用されています。ステンレス鋼や炭素鋼、チタンなどもありますが、あくまでカスタマイズレベルでの話なので家庭用で使われているもののほとんどは真鍮です。
さらに、これが通常の真鍮(銅と亜鉛のみ)なのか快削真鍮(鉛含有)なのか、はたまた別の真鍮なのかは判断できません。快削真鍮であれば、鉛や残留カドミウムによって人体に影響を及ぼす可能性もあります。日本で流通している金属材料であれば材質や成分もたどりやすいですが、真鍮ノズルのほとんどがMADE IN CHINAです。(そもそも家庭用3Dプリンターのほとんどが中国製)

3.耐熱性に問題がある

PLAもABSも汎用プラスチックの一種であり、熱耐性は低いです。
特にPLAは耐熱性が低く60℃程度で軟化してしまうため、煮沸消毒や食洗器での洗浄ができません。
これでは、積層痕に残留して繁殖し続ける雑菌を消毒することもできません。
ABSプラスチックであれば基本的に食洗器に対応できますが、あくまで工業製品として材料仕入れの段階でキチンと保証されている前提の話です。
いずれにせよ、ABSも100℃には対応していないので煮沸消毒ができません。

市販のクッキー型とは何が違うのか?

では、市販のクッキー型と3Dプリンターでハンドメイドした物は何が違うのでしょうか。
市販のクッキー型はステンレス、ABS、ポリプロピレンなどで出来ています。
ここではプラスチック素材であるABSとポリプロピレンの場合について解説していきます。

市販のクッキー型の表面を触ってみるとすぐわかるのですが、3Dプリンター造形とは大きく異なりツルツルしております。これは「射出成型」という製造方法によって作られているためです。
射出成型もプラスチックを溶かして吐出するのですが、こちらでは金型と呼ばれる非常に面粗度の高いツルツルした金属の型が使用されています。結果として、このツルツルの面が射出されるプラスチックにも反映され、綺麗な面のプラスチック製品ができあがります。

クッキー型以外も同様に、100均で売られているようなABSプラスチック製品は射出成型で作られています。射出成型により、圧倒的な大量生産を可能にした上で綺麗な表面の製品が作成できます。
ただ、成形に必要な金型という部品は数百万~数千万円するので個人では簡単に手を出せるものではありません。

こうしてできた射出成型品には積層痕がないため、水分が残り雑菌が繁殖する心配もありません。
ポリプロピレンであれば煮沸消毒も可能です。また、ABSでも耐熱性が一定程度保証された材料であれば問題ないものもあります。

射出成型の例①
射出成型の例②
熱積層造形の例

市販品は食品衛生法に基づいて製造されている

一般的にお店で販売されているプラスチックのクッキー型をはじめ、コップや箸、スプーンなどは食品衛生法における「食品用器具」に分類されます。その食品用器具・部品を製造する業者は「食品衛生法」によって定められた「製造管理基準」に則して製造しなければなりません。
そのため、食品用器具を販売するという事は本来であれば非常に敷居が高く、厳しい基準をクリアする必要があるというわけです。

3Dプリンターを使用した食品器具の安全性に言及している記事

3Dプリンターで食品器具用モデルを作成する事の難しさが記された記事があります。
『食品グレードの 3D プリント モデルの作成方法』
https://blog.prusa3d.com/how-to-make-food-grade-3d-printed-models_40666/
こちらは3Dプリンターメーカーで有名なPRUSA社が紹介している記事です。
フィラメントに含まれる顔料の危険性や真鍮ノズルを使用した場合のリスクなどの記載もありますが、細菌が増えないようにするには「透明のエポキシレジン」でコーティングするしかないというテスト結果も記されています。
さらにエポキシレジンの中でも食品グレードの認可を受けているものは数少ない上に高価であり、エポキシレジンは液体の状態で毒性があるため、硬化にも非常に気を配らなければなりません。

フリマサイトで販売されているクッキー型は安全か

何の気に無しにフリーマーケットで販売しているようなものでは、上記のような事象は考慮されているとは考えられません。というよりも、上記の事項を個人がやっているハンドメイドレベルで実現するのは非常に困難であり、出来たとしても採算が取れるはずもありません。
つまりフリマサイトで売られているような値段では、きちんとした安全性を実現するのはほぼ不可能だという事です。

PLA樹脂を使い「トウモロコシ由来の樹脂なので安全です」と謳われていても、前述のように植物由来どうこうという話ではありません。そもそもなぜ耐熱性がPLAよりも高いABSがあまり使用されないかというと、PLAはコストが安い上に造形が簡単であり、エントリーモデルの家庭用3Dプリンターでも作成できるからです。

食材に使用する物だからこそ、慎重になった方がいいでしょう。
自己責任において、個人の趣味で楽しむ程度にとどめておいた方が賢明です。
リスクなどを説明せずに販売するのも購入するのも危険だと言えますし、場合によっては製造物責任法(PL法)がハンドメイド製品にも適用されるケースがありますのでご注意下さい。

参照

“How to make food-grade 3D printed models”.Prusa Research.2022-10.https://blog.prusa3d.com/how-to-make-food-grade-3d-printed-models_40666/
“食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度”.東京都福祉保健局.2022-10.https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/kaisei/kiguyoukihousou.html